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しかし、言われた「交番」とやらを覗いておれは顔をしかめた。そこには警察がいたからだ。
――ケーサツは嫌だ。
尋ねるのはやめて、こっちだ、と思う方向に進む。しかし、それが失敗だった。
家の近所と違って、この街はどこまで進んでも人だらけだ。道も真っ直ぐではなく複雑な形をしていて、おれはすぐに自分がどこにいるのか分からなくなった。
「あの、すみま……」
尋ねようにも声をかけられない。人々はみな目的を持ち、あるいは連れ合いと楽しみながら歩き、立ち止まった小石のようなおれに目をくれようともしない。
どうしようもなくなって、おれは駅まで戻った。
警戒しながら交番で道を尋ねると、中年の警官はわざわざ手書きの地図まで描いて、ライブハウスまでの行き方を説明してくれた。さっきまでいたのと真逆の方向だった。
「大丈夫かい? あそこらへんはちょっと物騒なエリアだから気をつけなよ」
「すみません、大丈夫です。ありがとうございました」
謝ったのは、先入観を抱いて最初に頼ろうとしなかったことへの謝罪だ。同じ格好をしていても色んな人がいるんだな、と思った。あるいは、猫と人との目線の違いなのかもしれない、とも。
それからまた何度か道を間違えて、ようやく着いた『クラブ・ポーラーベア』は、頬を紅潮させた観客を次々に吐き出している最中だった。どうやらもうライブは終わったらしい。
おれは焦って中に飛び込み、関係者らしい人に話しかけた。
「あの、すみません!」
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