Ⅰ ジャコ

12/19

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
「なんすか、それ」 「ガキの頃のあだ名だよ。実家が養豚場だったの」 「なにそれ、おもろいっすね。あ、じゃあそういう系でいいじゃん。戸庭さんもないですか? 実家が魚屋とか八百屋とか」 「どういう芸名にすんだよ、それで。野田さんち肉屋じゃねえし」  シゲが真っ当なツッコミを入れた。しかし、もし実家が魚屋なら、あだ名はジャコになりはしないか、とおれは隅っこで危機感を覚えた。 「別に実家は普通だよ。サラリーマン家庭」  戸庭は答えた。 「父親が十人兄弟だけどさ」 「まじで! いつの世代っすか、それ。十人兄弟の何番目なんですか」  リッカがけらけら笑った。 「信じられないよな。八番目だよ」 「お、いいじゃん。なら『ハチ』でいきましょうよ」 「構わないよ、それで」 『ジャコ』は無事に守られた。  おれは安堵の息を吐き、大きなあくびを一つした。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加