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「シゲはどうして」
尋ねてしまう。
「なんでリッカを助けなかったんだよ。リッカが曲を作れないって知ってたんだろ。トンも、ハチも一緒だよ。その、事務所ってやつがないと、歌はうたえないのか。音楽はできないのか?」
「そんなことはない。事務所に所属してなくたって、俺たちがやりたいと思えば勝手にやることはいくらだってできる」
「じゃあなんでやめちゃったんだよ。四人で頑張ってたじゃないか。日本に、世界中に知られるバンドになるんだって。失敗したってそこでやめなければ、いくらでも成功するかもしれないのに。なんでリッカを助けなかったんだよ、仲間じゃないのかよ」
「リッカが俺を必要としてなかったからだよ」
シゲは憤ったように言った。
「リッカは才能のかたまりだ。歌もギターも、作詞も作曲もすごいんだ。音楽の世界で、一人でどこまでものし上がれる。最初に会ったときも思ったし、ずっと一緒にやってきて、間違いないって確信してる」
ため息が聞こえた。
「バンドを組もうってとうとう言われたときは嬉しかったよ。隣でお前の歌が聞きたいって誘い込んだのに、リッカは全然別のやつとばっかりやってたからな。そいつらより何としてでも上手くなってやるって猛練習した。いざ声をかけられて、報われた思いがしたな」
冷えた手をこすりながら、シゲは続けた。
「タチアオイはいいバンドだったよ。それぞれの個性がたぶん一番いい形で噛みあってた。トンとリッカは言い争いばっかりしてたけど、ハチがストッパーにもなってたし、なによりそれが結果的に音楽を良くすることも多かった。契約解除は最悪な話だったけど、メンバーが欠けたわけじゃないから、もし続けてたらどっかの時点でちゃんと成功してたと思う」
「じゃあ」
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