Ⅲ ジャコ

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 リッカの胸は、身体は温かかった。もう絶対逃がさない、と思いながら、おれは抱きつき続ける。  離れろと言ったくせに、彼の手はおれの背中に回っていた。それに気づいた瞬間、いっそう強くしがみついた。 「リッカ。厄島から聞いたぞ、引っ越しのバイトってなんだよ。もう音楽はやめたっていうのか」 「やめてねえよ。あ、引っ越し屋はやめたけどな。厄島のヤロウ、律儀に言いふらしやがって」  リッカが毒づく。 「というか、お前どうしたんだ、その指」 「ちょっとケガしたんだ、大丈夫、もう治るよ」  ケガ、と聞いて驚いて身体を離す。リッカの右手の中指が白い包帯でぐるぐると巻かれていた。 「あ、お前が離れると急にさみいな」  リッカが笑う。  あれだけリッカに会わせろ、とまくしたてたのに、いざ本人を目にすると何も言葉が出てこない。おれはリッカの目を見つめた。 「どうした。言いたいことがあるんだろ」  優しい口調でうながされる。口を開いた。 「リッカ、バイトをやめてほしい」 「もうやめたって言ったろ」  リッカは不思議そうな顔をした。 「そうじゃなくて、これからもずっとしないでほしい。お金がないなら、やっぱりオレがバイトして稼ぐ。だからリッカは、歌ってほしい」  おれは続けた。 「でももし、今歌いたくない気持ちだったら、そういう気になるまで、好きなことしてたらいい。リッカがこれまでおれのためにしてくれたみたいに、今度はおれがリッカの面倒をみるから。だから、それでいつかまた、歌をうたえるようになってほしいんだよ」
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