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「おいおい」
リッカは苦笑した。
「お前に心配かけないために、って思って色々片付けてきたんだけど、結局そんなこと言わせるなんてとんだ間抜けみたいじゃないか」
包帯の手で髪をかきあげながら、リッカは言った。
「あのな、オレはまた歌いたくなったんだよ」
「リッカ」
シゲが思わずといった口調で名前を呼んだ。
「ずっと、頭の中身が死んでるみたいだったんだ。それが、お前と過ごして、食事したり散歩したり笑ったり、そういうことしてるうちに、だんだん甦ってきた。歌にしたいことも、歌いたいことも、いま溢れそうになってる。どんな形でもいい。世界にオレの歌を聞かせたい」
リッカの瞳は、夜なのに光をはらんでいる。
「だから、親父に頭下げてきた。昔生意気なこと言って家を飛び出してきたけど、ようやく正しいことも言われてたってわかったから。親父の仕事を馬鹿にしたことを謝ってきたよ」
「リッカの親父さんって……」
シゲが言った。
「お前にも言ってなかったよな。うちの父親、菅原聖剛なんだ」
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