42人が本棚に入れています
本棚に追加
「マジで? あのプロデューサーの?」
驚いたシゲの目が丸くなる。
「マジだよ。七光りなんて死んでも言われたくねえし、向こうもオレが息子なんて知られたくないだろうからお互い隠してる。まあ業界には知ってる人もいるんだろうけど。で、そんなわけで金だけは持ってるはずだから、土下座し倒して当面の生活資金借りてきた。出世払いでさ」
リッカが土下座と聞いて、シゲは倒れそうになった。おれも驚く。リッカはそんな人間じゃない、なんのために。
「ついでに、つてを使って調べてもらったよ。タチアオイをつぶした奴らは別件で捕まったりなんだりしてるから、俺らがいくら目立ったとしても、もうこっちに手出ししてくる心配はないらしい。だからシゲも安心してくれ。トンとハチにも伝えてくれたら助かる」
「リッカ、どうしてそこまで。そいつなのか、そいつのためなのか?」
シゲはおれの方を向く。けれどリッカは「そんなんじゃねえよ」と言った。
「悪かった、本当に。どれだけ恨まれてもしょうがねえ。全部を賭けるって言っときながら、オレは結局、自分のことしか考えてなかった。メンバーがいてこそのバンドだって、ちゃんとはわかってなかったんだ。タチアオイもきちんと解散させなきゃいけないな」
リッカは鼻をこすって言った。
「今度は一人で頑張ってみるよ。そんでいつか……また一緒にできることがあったらいいな」
「そうか……わかった」
シゲが答えた。
「……リッカが音楽を続けてくれるんならいい。俺は、俺の道を頑張るよ」
そう言って、じゃあ、と帰ろうとする背中をリッカが引き留める。
「おい、シゲ」
最初のコメントを投稿しよう!