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そんな生活が数年続いて、だいぶ年を取った。
ここに来た頃はリッカたちと同じくらい元気なつもりだったが、いつの間にか前の飼い主のおばあさんのほうに近くなって、それすら追い越しかけていた。
拾われた日に折った脚が今さら痛むようにもなった。おれが衰え続ける横で、リッカもシゲも何も変わらないように見えるのを不思議に思った。
昔はシゲがいると部屋から出ていくことが多かったが、近ごろはそれも億劫で、横になっているときにシゲの気配がしても、ちらりと見やって再びまどろみに落ちるだけだ。
向こうもおれを厄介者と思うのをやめたようだった。ようやく自分の立場に気づいたのだろう。今さら遅すぎるが、もはやどうでもいい。
そんなある日のことだった。昨日はリッカが帰ってこなかったなと思いながら、ちょうどこの時間帯に日の当たるシゲの部屋の隅で丸くなっていた。
長い冬が終わり、きっと地面からはつくしやふきのとうが顔を出している。ひらひら舞い踊る蝶々も夢の中だ。シゲは座卓に置いたノートパソコンに必死に何かを打ち込んでいたのだが、ふと気づけばカタカタ鳴るその音が止んでいた。
「リッカ、今日はすぐ帰るっつってたのに遅いな。打ち合わせ、直接行くつもりかな」
シゲが呟いたとき、おれはただぼんやりしていた。
「早いよな……何年だ? お前が居つくようになってから。お前が、きっかけだったんだよなあ。ようやくリッカにバンド組もうって言ってもらえて、トンもぶつぶつ言いながら一緒にやってくれて、ハチなんてスペシャルな人も入ってくれて。リッカの目標設定はむちゃくちゃだと思ったし実際それよりは時間かかったけどさ、なんだかんだでメジャーデビューすんだぜ、俺ら、あとちょっとで。びっくりだよ。あっという間だったな」
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