Ⅱ リッカ

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『もしもし、リッカ?』 『ああ。なんだよ、突然』 『いや、あんた知ってるだろうとは思ったんだけどさ、葬式にいなかったから気になって、もしかしてと思って』 『回りくどい。何の話だ』 『あーやっぱり……父さんリッカには伝えてなかったのね。おばあちゃん、亡くなったのよ』 『……は?』  オレが初めてステージで歌ったのは高校生のときだった。文化祭に向け、メンバーが足りずに困っていた軽音楽部の知り合いに「頼む。ボーカル引き受けてくれ」と頭を下げられたのだ。  始めは「冗談じゃねえ」と断ろうとしたが、ひょっとしたら面白いこともあるんじゃないか? と思いついた。 「一曲書かせてくれるならやってもいい」と条件を付けるとあっさり了承されたので気を良くして、歌い、叫び、そして吠えた。作った曲は、結局五曲はやった。  ガムテープでつぎはいだ黒いカーテン、スズランテープで作られたちゃちな飾り、陳腐な音楽室が自分の歌で最高のステージに変わる。  熱狂する揺れる客席が、オレを酔わせた。音楽の授業かカラオケボックスでしか人前で歌ったことなどなかったから、ライブも、バンドも、まるで革命を起こすための発火装置に思えた。  客席にいた一人が、シゲだった。出番を終え汗だくで引っ込んだオレを、廊下を区切って作られた楽屋で、待ち構えていた。
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