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「今のバンド、組んで長いんすか?」
小柄な男で周囲に溶け込んでいたから、最初は部員の一人かと思った。そしたら全然違った。
「即席だぜ、今日で解散。オレ以外のメンツは知らねえけどな。お前、誰だよ」
「じゃあ」
質問に答えもせず、妙に肝の座った光る目をしていたな、と思い出す。
「俺と一緒に歌ってくれ。あんたの歌が、一番近くで聞きたいんだ」
いきなりスカウトされたことに驚き、これからスタジオで練習するというシゲに流されるようについて行った。降り出しそうな梅雨空の下を、斜めに並んで歩いた。
「歌は習ってるのか?」
「いや、一度も、自己流だよ。ガキの頃にピアノならやってたことがあるけどな」
お前は? と問うと、自分はドラマーだ、とシゲは答えた。
「小さいころから習ってた。ドラムしかやったことないんだ」
「つーか、お前、いくつ」
「同い年だよ。じゃなきゃこんな口調で喋らない」
「なんでオレの年知ってるんだよ」
「ライブ中自分で言ってたじゃないか。もう卒業だ、って」
ちょうどそのとき、信号かなにかで足を止めたのだと思う。ふと横を向いたオレの目に、ショッキングな色が飛び込んできたのだ。背丈ほどもある茎と、そこにしがみついて咲く幾輪もの花。存在感にぎょっと目をむいた。
「なんだ、この花」
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