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シゲのカウントが狭い部屋に響き、野田のベースとシンクロした。
正直、感動した。目の前の男をこてんぱんにしてやろうなんて気持ちはあっという間に霧散し、オレはただ二人の音に「歌わされる」ばかりだった。
文化祭の舞台も気持ちの良い経験だったが、それはただステージの上から声を響かせるという快感、そして観客の耳にオレの声しか聞こえていないことへの満足だった。
それがまるで違った。
規則正しいドラムのリズムがオレの声を引っ張り、そして腹にたまるベース音がその響きをふくよかにする。なんと充実していて、心地良いのだろう。
さっきの即席メンバーがBB弾だとしたら、この二人はガトリングガンでキャノン砲だった。威力も衝撃も桁違いだ。これがバンドというものなのか。
「お前、菅原……」
曲が終わってなお鎮まらない興奮を抱えたオレに野田が呟く。
「本音を言うと、驚いた。茂、すげえやつ連れてきたな」
「だろ」
シゲもこぼれる汗をぬぐっていた。
「菅原さ」
野田に呼び掛けられる。
「リッカでいいよ。呼びやすいだろ」
「おう、じゃあ、リッカ。俺たちと組むか。茂は時間があるだろうし、俺もバンドって意味じゃフリーだ」
期待のこもったシゲの目がオレを見る。
「いや」
しかしオレは応えなかった。
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