Ⅱ リッカ

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「は?」 「確かに、あんたたちと歌うのはすごかった。感動したし、バンド、やってみてえって思った。でも、他にも色んなやつとやってみたくなったんだ。だから、今あんたたちとは組まないよ」  シゲは呆然とし、野田もあっけにとられていた。 「じゃ、帰るわ。連れてきてくれてサンキュ。じゃあな」  なにかうるさいことを言われる前にさっさと退散した。  ところで、二人に言った言葉は事実だが、本音は少し違うところにもあった。シゲはともかく、オレは野田が気にくわなかったのだ。  実力を見せつけ、少しは気が晴れたが、逆もまたしかりだから気分はどっこいだった。すぐに仲良くやれる気もしないし、一緒にやっていくなんて真っ平だ、とこのときは思っていた。  高校生活の残りを、オレは音楽に費やした。  文化祭のメンバーに「もっと上手い人間を紹介しろ」と迫って連れてこさせた奴、あるいはそいつの友達、シゲにも何人か年の近い奴を紹介させ、片っ端から一緒にやった。  オレの家は、マンションながら防音室もドラムセットもあったから、練習場所には事欠かなかった。受験勉強もほとんど放棄し、ひたすらに励んだ。  一方で、ライブをやりたいという欲望にも忠実に従った。ライブハウスで演奏するのは、チケットを買い取らなければいけないことが難点だったが、学校で声をかければ大体さばけるとわかったので、短い期間に何度も出演した。どうやら、文化祭の効果で何人かファンがついたようだった。オレ以外はメンバーもバンド名も毎回違ったが、呼べば必ず誰かが聴きに来た。
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