Ⅱ リッカ

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 高校を卒業して大学に入っても、やることはさして変わらなかった。むしろ、勉強する気がなかったので、拘束時間が減ったのがありがたいくらいだった。つてのためも兼ねてサークルにいくつも入り、大学の中でも外でもメンバーを集めて、年中イベントのために練習していた。 「リッカ、今いくつバンド組んでんの?」 「四つ、いや五つか六つか?」  明確な合意なしにフェードアウトしていくものがほとんどなので、正確な数などわからない。話しかけてきたこいつも、どこかで一緒にやった奴だ。 「タフだなー。俺なら考えられないわ」 「そんなことより、社会学概論のレポート写させてくれよ。約束だろ」 「はいはい」  しかし、そんな生活がいつまでも続いたわけではなかった。急転直下したのは、二年に進級した頃だった。 「マジ、リッカんちって金持ちだよな」 「ねーよ」  その日も練習のため、バンドメンバーと連れ立って自宅のスタジオに向かっていた。意味のない会話をかわしながら、タラタラと歩く。 「いやいや、普通の家には防音室なんかねえだろ。しかもマンションだぞ、どんだけ高級なんだっつう」 「後から付けたんだよ、親父の仕事があるからさ」 「へー、そうなんだ。親父さん、何してる人なの?」  聞かれて、あ、しくった、と気づいた。今まで巧妙に避けてきた話題だったのだ。なんとか誤魔化さねば、と口を開いたが、声を出す必要には至らなかった。
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