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ちょうど到着したマンションのエントランスに、その当人が仁王立ちしていたからだ。同じ家に住んでいながら顔を合わせるのは、一か月、いやそれ以上ぶりのことだった。
「立夏」
いつ向き合っても巨大な存在感がいまいましい。
「なんの用。そこ立ってられると、エレベーター乗れねえんだけど」
「友人を連れてきたなら家主に紹介するのが筋だろう」
「親父、いつも居ねえだろ。それにまだ家に入ってないし」
「いつもの話をしてるんじゃない。こうやってたまたま居合わせたときくらい、生意気な口をきく前にすることがあるだろうと言ってるんだ」
ちらりと振り向くと、連中は後ずさりしそうにびびった顔をしながら、ガラス扉の前に突っ立っていた。オレはちっと舌打ちした。
「悪かったよ。大学の友達だ。防音室、使うから」
「なるほど、そういうことか」
父親は友人をちらりと見た後で、納得したように呟いた。そいつらはそれぞれギターとベースを背負っていたのだ。
そしてオレに、一枚の紙切れを突きつけた。
「どうしたらこんな落第すれすれの成績なんか取れるんだと不思議に思ってたが、そうか、バンドなんぞにうつつを抜かしてた、というわけか」
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