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紙切れは大学の成績表だった。自分に配られたものはろくに見もせず捨てた記憶があるが、ここにあるということは、保護者宛てにわざわざ別送でもされたのか。
「悪いか。ちゃんと進級したんだから」
「良いわけあるか!」
一喝される。
「大学に通う意味をなんだと思ってるんだ。だらだらさぼってモラトリアムを謳歌させるために、こっちは金を出してるわけじゃない」
「誰がだらけてるんだ。オレは、やりたいことをやりたいように、やってるだけだ」
「それがバンドだと言いたいのか? くだらない」
「はあ?」
その一言は聞き流せなかった。
「バンドがくだらないってなんだよ、それ。親父がやってることと何が違うんだ。同じ音楽だろ、変わらないじゃねえか」
「馬鹿か。何が同じだって? 仕事と遊びの、何が一緒なんだ」
「遊びじゃねえ」
「その程度のことがわかりもしないガキのくせして、よく授業をさぼれたもんだな」
「文学部なんだからそんな講義ねえよ」
後ろで自動ドアの開く音がした。なおも口を開こうとする父親のもとに、一人の男性が近寄った。
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