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「取り込み中にすみません、お迎えに上がりましたが」
「ああ、すまない。すぐ行く」
父親が呼んだタクシーの運転手だった。しびれを切らして、直接呼びに来たのだろう。父親は腕時計を見ると、焦った様子で出口に向かいながらオレに言った。
「とにかく、今日は夜また帰るから、お前も出かけるなよ。きちんと話をしよう」
「する話なんてねえよ」
「こっちにはあるんだ」
オレはふんと鼻を鳴らした。「くだらない」と言われたことといい「遊び」と決め付けられたことといい、もう限界は超えていた。
「ねえっつってんだよ。金の問題なら大学なんて辞めてやる。家主だなんだって言うなら家も出てってやるよ。勝手にするからな」
「立夏。いいから、そんな話もあとだ」
「知らねえ」
なんの仕事が待っているのか、慌ててタクシーに飛び乗った親父を見送り、オレは待たせたメンバーに向き直った。
「わりいな。とりあえず、今日のところはここで練習しようぜ」
「いや……」
なぜか彼らは顔を見合わせる。
「俺たち、もういいかなって」
「いいって、何がだ」
意味がわからずに聞き返す。
「リッカの邪魔してるし、親父さんに迷惑かけるのも良くないしさ」
「はっきり言うよ。リッカとうまくやれる自信がないから、もうこのバンドを辞めようってこと」
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