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「シゲ、あした暇か」
「バイト終わって寝たあとなら。学校は休みだから」
ある日の晩、そのバイトに向かおうとしているシゲと会話を交わした。彼は深夜から早朝にかけて、牛丼屋とコンビニのバイトを掛け持ちしている。家に帰ってから仮眠をとり、日中は音楽の専門学校に通っている。オレと違って家で過ごす時間はほとんどない。
「なんで?」
「作った曲をやる。スタジオ付き合えよ」
シゲは目を見開いた。
「楽譜は」
「打ち込みの音源あとでメールする」
メンバーに逃げられたオレは、バンドで曲をやることに飢えはじめていた。一人になっても、バンドのための曲ばかり作っていたからかもしれない。部屋で口ずさむ分には名曲でも、ステージでかき鳴らしたときに同じとも限らない。
なんとかならないか、と考えたときに、シゲの存在を思い出した。一番近くにいたではないか。ドラムだけ、というのは少々物足りないようにも感じたが、自分でギターを弾けばいい、と思い直した。シゲと連れ立って、近所のスタジオに入った。
「昨日送ったやつ、覚えたか」
「できるかよ。一度に二十曲も送ってくるやつがあるか」
盛大なあくびを噛み殺しながらシゲが答える。そういえば、バイトに行っていたんだ、と思い出した。正直聞く暇すらなかったはずだ。
「ま、しかたねえな。オレは弾いて歌うから、合わせて適当に叩けよ」
「わかった」
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