Ⅱ リッカ

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 悪態をついたわりに、シゲはほぼ打ち込み通りに演奏してみせたので、驚いた。おまけに曲が終わるとがつがつ提案までしてくる。 「サビ前、もうちょっと盛り上げたほうがよくないか」 「どんな風に」  シゲは即興で、フィルインに様々なアレンジを加えてみせる。 「今のやつがカッケ―な」 「了解」  三時間があっという間に過ぎて行った。今までの奴らとは全然違う。下流に向かって幅の広がる川の流れのように、曲が良いものに育っていくのがわかる。歌が勝手に「乗る」感覚も、あの日と同じだった。  オレは何を一人で足踏みしていたんだろう。正解は、すぐここにあったのではないか。 「雨降ってきそうだなあ。傘ねえや、しくったな」  スタジオを出て曇天を見上げたシゲが呟いた。オレももちろん、傘など持っていない。生まれてこのかた持ち歩いたことがない。そのとき、ズボンのポケットで携帯電話がふるえるのを感じた。 「ちょい待ち、電話かかってきた」 「おう」  画面をのぞくと、数年ぶりに見る名前が表示されていた。不審に思いながらも通話ボタンを押した。 「なに?」 「もしもしリッカ? 合ってる?」  電磁波で多少ゆがめられてはいるが、それは姉の声だった。前に会ったのは正確にはいつだったか。 「ああ。なんだよ、突然」 「いや、あんた知ってるだろうとは思ったんだけどさ、葬式にいなかったから気になって、もしかしてと思って」 「回りくどい。何の話だ」  さばさばした女のはずなのに、妙に引っかかった物言いをする。 「あーやっぱり……父さんリッカには伝えてなかったのね。おばあちゃん、亡くなったのよ」 「……は?」
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