Ⅱ リッカ

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 周囲の音がすうっと遠ざかった。電話の向こうの雑音ばかりが、増幅されて脳に届く。突然足を止めたオレを、シゲが不思議そうな顔で見つめている。 「死んだって、なんだそれ。ばあちゃんオレに一言も……聞いてねえぞ」 「バカね、これから亡くなるなんて、自分で言えるはずがないじゃない。直接的な死因は心筋梗塞だったけど、もう年だったし、ほぼ寿命の大往生なんじゃないかって言われたわよ」 「そんなこと」  が聞きたいんじゃねえ、と言おうとしたが、じゃあ何を聞きたいかと問われると答えられなかった。ばあちゃんが死んだ。そればかりが頭をぐるぐると回り続ける。  それから姉と二言三言かわしたが、ろくに何を喋ったか覚えていない。電話を切ったオレは、シゲの存在を無視して歩き出した。 「どこ行くんだよ。おい、リッカ……」  オレの父親は、界隈では名の知れた、どころか全国民がグループ名を知っているようなアイドルグループを手がける音楽プロデューサーだ。祖母はその父親の母で、同じく華やかな業界に身を置くモデルの母が、まだ幼いオレを置いて家を出て行って以来、ずっとオレを育ててくれた。  姉は、その頃すでに高校生モデルとして活動を始めていたからオレの生活どころではなく、父親も脂の乗り始めたところで、子育てに割く時間は週に一時間もなかった。母は、別れてからも姉のサポートだけはしていたようだが、オレにとって親と呼べるのは祖母くらいなものだった。
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