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そのばあちゃんが、死んだ?
シゲと一緒にワンルームを追い出されたとき、次の住処をさがして都心から少し離れたこの地を選んだのは、家賃のことばかりでなく、祖母のことが頭にあったからかもしれなかった。
『ここで一緒に住めばいいだろう。そしたらあっちの家は解約できて、無駄がなくなる』
記憶の中の父親も、いつも顔をしかめている。ひとたびカメラを向けられたら、そんな顔などしないくせに。
『こーんな、今にも折れそうな細いビルばかりにょきにょき建ってるところに住めるもんですか。私が借りてる家なんだから、貴方に関係ないでしょ』
『だからって、どうしてわざわざあんな不便なところに住む必要がある』
『大げさね、同じ都内でなに馬鹿なこと言ってるの。どうせ私が立夏を連れていったところで、ろくに会いにくるわけでもないくせに』
『そうとは決まってないだろう』
『いや、間違いなくそうなるわよ。何なら、立夏はここで暮らして、私がこっちに通ってきてもいいけどね。そしたら、夜だけでも貴方に会えるでしょうから』
『嫌だ。オレ、ばあちゃんちの方がいい』
オレは、祖母と一緒で、目が回るほど高層ビルが乱立した自宅の近所の風景より、少しおちぶれてくすんだ景色の祖母の家の周りのほうが好きだった。
いや、周りの景色より、部屋の中かもしれない。父も母も、最低限の生活用具しか置かないせいで、家は綺麗に整頓されているが殺風景すぎる。それと比べて祖母の家は、なにより食べ物のにおいがした。いつも煮込んだスープの温かさがあった。ふかふかに保たれた布張りのソファーに座って、ゲームをやったり本やマンガを読みふけるほうが、ずっと居心地がよかったのだ。
『そうなの? 立夏。うちからは今の学校通えないわよ。お友達とかとも、離れちゃうよ?』
『友達なんてまたできるから別にいいよ。オレ、ばあちゃんとこで暮らす』
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