Ⅱ リッカ

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 小学校を卒業するまで、オレは祖母の家で暮らした。それまでのように甘やかされるばかりでなく、ときには厳しく叱られたりもしたが、一緒に囲む食卓が暖かくて幸せな数年間だった。  その後、父親に受験させられた中学に通うため、実家に戻った。父親は相変わらず、子育てをしないどころかほとんど家に帰りもしなかったが、祖母は毎日手伝いにきてくれた。その頃には実家も実家で、便利すぎる立地と綺麗に整頓された部屋が快適に感じられるようにもなっていたから、不満を抱くこともなくなった。  エスカレーター式に高校に進学すると、さすがに生活に祖母の手助けもいらなくなり、たまに自分で遊びに行くだけになった。大学に入ると、それすらしなくなり、時々思い出しては電話をかけ、会話をかわすくらいだった。 「ここ、どこなんだよ」  シゲが言った。オレたちは何の変哲もないマンションの前に立っていた。降り出した雨がコンクリートの外階段を湿らせている。 「ばあちゃんちだよ、オレの」 「さっき……亡くなった、って話してた?」  オレはただうなずいた。  そう、ここに来たところでもう意味はない。誰もいない。最後に話したのはいつだったか。数日……いやもう少し前に電話をかけたが、発信音がぶつりと不自然に途切れた。あとでかけ直そうと思い、そのまま忘れたきりになっていた。  こんなことになると分かっていたなら、あの時ならまだ間に合ったのか、それとも……やめよう。無駄な問いだ。
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