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「うるせーよ、シゲ。駅前にたしか動物病院あったよな……」
そのとき、再び花が目に入った。唐突な形と色の存在感。枯れた姿など想像もつかない生命力が、腕の中の消えかけた命と対比される。
ぱっ、とひらめくものがあった。
「おい、お前、すぐだからな。ちょっと我慢しろよ」
そっと背中をなでてから、走り出す。そしてぼやきながらも後をついてきたシゲに、走りながら言葉をかけた。
「あの花の名前を教えてくれたのもシゲだったよな」
「花? なんの話だ」
ここから駅までは十分足らず。間に合うか。いや、間に合え。
「おい、決めたからな」
「は?」
「野田さんも呼べよ。あのベース弾いてる」
「だからなんだよ、いきなり」
びしょ濡れの男二人が息を切らしながら走る。こっけいな姿だがどうでもよかった。今日から全てが始まる、という確信がオレにはあった。
「『タチアオイ』だ」
「なにがだよ。……ああ、花って」
「オレたちでバンドを組むんだよ。バンド名は、『タチアオイ』だ」
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