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タチアオイの活動は軌道に乗り始めていた。シゲに連れてこさせた野田は、スタジオミュージシャンの不規則すぎる生活に消耗しており、しぶしぶながらもメンバーになることを承諾した。
「菅原、噂は聞いてるよ。歌は文句なしなのに、なかなかメンバーが居つかないって。どう考えても、なにかしらお前が地雷抱えてるんだろ」
「だとしたら、何が問題だよ。色んな奴とやってはみたけど、結局あんたとシゲほどのやつはいないってことがわかったんだ」
「気づくのが遅すぎるんだよ。その鈍さでこの浮き沈み激しい業界でやっていけると思ってんのか」
「だったらあんたはどうなんだ? 心から満足して今の立ち位置についているって言えるのか? 本当はもっとぶちかましたいんだろ。いいから、これ聞けよ。で、ちょっとでも納得したならオレと組め」
打ちこみで作った音源に、自分の声だけかぶせて録音したものをプレイヤーごと手渡した。憮然とした顔で聞き始めた野田だったが、すぐに考え込むような表情に変わる。結局、返事がイエスだったことを、ほっとしながらもオレは当然だとしか思わなかった。
こうして三人で始動したタチアオイがすぐに順調な活動を始められたのは、野田がすでに事務所に所属していたことが大きい。その事務所がサポートについてくれたおかげで、ライブの出演もスムーズに決まった。さっそく自主制作で出したCDの売り上げも上々で、タチアオイは日に日にファンを増やしていった。
「シゲ、今日バイトだよな?」
「ああ、そうだけど。ってリッカ、いい加減にしろよ」
「なにが」
「気づいてないと思ってるのか」
シゲは呆れたように言った。
「女だろ。連れ込むなとは言わねえけど、節度ってもんが……」
「うるせえな、高校の教師かよ。お前に指図される筋合いじゃねえ」
ため息をついてシゲは出て行った。
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