Ⅱ リッカ

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 インディーズ界隈で爆発的な人気を誇り、メジャーデビュー目前ともてはやされていた五人組ロックバンドの『MIYABI』が突然の解散を発表したのは先月のことで、よくあることながらも、業界にそこそこの震撼をもたらした。  しかしオレはその情報を事前に入手していた。MIYABIの所属するレーベルでアルバイトをしているという女だった。守秘義務もあったものではない下っ端のだらしなさに正直うんざりもしたものの、結果的に早期の接触が功を奏したはずで、ありがたいことではあった。  欠けたピースがようやくはまった。図柄が揃っている確証などないが、引く手あまたの中でうちを選んでくれたのだ。勝率は低くないはずだった。  翌日、事務所も交えて顔合わせを行い、さっそく次の週にはメンバーだけでの打ち合わせを行うこととなった。 「なんだ。リッカもシゲも猫くせえなとずっと思ってたら、本当に猫がいるのか」  我が家にやってきた野田が、無遠慮な視線で室内を見回す。ジャコは逃げ出すかと思いきや、部屋の端にでんと寝そべり、大きく伸びをしただけだった。 「バンドを組む直前にリッカが拾ったんだよ。あ、野田さん、戸庭さんも動物アレルギーとか……」 「大丈夫だけど」  戸庭が答えた。 「ところで、何でスタジオじゃなくてお前らの家なんだよ」 「金がないからだよ」  今日は楽器なんて弾かねえだろ、もったいない、とオレは言った。 「そんなに金に困ってるのもリッカくらいなもんだけど。俺はバックバンドの仕事もあるし、シゲはバイトしてるだろ。MIYABIはそうとう売れてたから、戸庭さん……これから同じメンバーってのに、さん付けも微妙だな」  野田はメガネの位置を直した。 「とにかく、リッカ、金欠なのはお前だけだよ。しばらくはバイトくらいしたらどうだ」
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