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「よし。……じゃあ、シゲは? お前もいつもオレに小言をいうだけじゃなくて、たまには自分のドラムについてでも語れ」
「俺?」
シゲは口を開いたが、ためらっていた。
「俺は……いいよ。リッカの歌がより良くなるようにドラムを叩く。それだけだ」
「張り合いのねえやつだな。まあいいだろう。じゃあ、野田サン」
「リッカにさん付けされるのも、逆にバカにされてるように聞こえて気にくわねえんだよなあ。あとで何とかしようぜ」
それはそうだな、とオレも同意する。
「って、本題を喋れよ」
「わかってるって。俺だって上を目指したいよ。日本中が俺たちのことを知って、好きになって、歌を口ずさんでくれたらそれ以上のことはない。というより、端的に売れたい」
ようやく聞けた本音に、オレはにやりと笑った。
「ただ、リッカの言うことに一度はちゃんと反論しとかないと、お前つけあがってワンマン化するだろう。それが嫌だってだけだ」
「あいかわらず一言、いや二言以上多すぎるんだよ。余計なこと言ってる間に、いくらでも追い抜かされるぞ」
とはいえ、一人で突っ走って振り返ったら誰もいなかった、という事態が最悪なのも本当だった。野田の態度ももしかしたらオレには必要なものなのかもしれない。
「息する間も惜しんで、死ぬ気でやれ。日本なんてちっぽけなこと言うな、世界で売れるぞ」
「おう」
ださいなとは頭をよぎったが、思わず目の前に差し出した右手に、次々と三人の手のひらが重なる。その重みと温かさは、ダサさの分だけ、頼もしくも感じた。
「じゃあ、さっそくメンバーの呼び方決めようぜ」
「そうだった、やろうぜ」
盛り上がった気持ちのまま会話が弾む。
オレとシゲが名前のまま「リッカ」と「シゲ」、野田と戸庭があだ名で「トン」と「ハチ」と決まった頃には、いつの間にか、ジャコの姿は部屋から消えていた。
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