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一年、と宣言した目標は、さすがにその期間で達成するとはいかなかったものの、予想よりもはるかに道のりは順調で、タチアオイは着実にバンドとしての実績を積み重ねていた。
「今日の予定は?」
「十時から雑誌の撮影、午後はスタジオ、終わりしだいでタイアップのアニメの打ち合わせ」
答えながらシゲが嘆息する。
「三角さんから一週間分まとめてメールきてただろ」
「だってしょっちゅうリスケかかるだろうが。尋ねるほうがずっと早い」
「俺の頭はリッカのMDじゃねえよ」
朝食代わりの牛乳を一気飲みすると、ジャコが足元にすり寄ってくる。
「ああ悪い。これで最後だ」
逆さにして見せてやると、ぽたりと一滴落ちた。うらめしそうな顔をして「ニャア」と鳴いたジャコはそれを舐め取ると、この時間に日の当たる窓辺へとのそりのそりと向かっていった。
「あいつ、今いくつくらいなのかな」
「年? わかんないなー、猫の年は。でも、最近ずいぶんのんびりしてるし、もしかしたらけっこういってるんじゃないか?」
「そうかな」
美しかった毛並みは今も輝きを保ってはいるが、密度が少し薄くなってきた気がする。なにより、日がな寝ていることが増えた。日中はいないからその間何をしているのか知らないが、おそらく自分が家にいるときと大差ないだろう。
「おい、ジャコ。なんか今日、美味そうな飯買ってきてやるよ」
オレは呼びかけた。
「そんなものより、リッカが早く帰ってきたほうが、あいつ喜びそうなものだけどな」
シゲがぼそりと言う。オレたちは連れ立って家を出た。
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