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「あ、猫」
満杯になったはずの頭の隙間に、すれ違った誰かの声が入り込んだ。
「ほんとだ、かわいー」
声は一瞬で通り過ぎて行ったが、指差された先をオレは見た。
……え、ジャコ?
「よそ見してんじゃねえぞ、つぶされてえのか」
慌てて顔を戻す。心臓が早鐘を打っていた。
今度は目だけを動かして同じ方向を見た。間違いない、あの毛並み、脚の引きずり方、あんな猫はジャコしかいない。
――なんでこんな所にいるんだ。さっさと逃げろ。
自分の目の力を信じて語りかける。すると、ジャコらしい猫はオレの視界から消えた。
――よかった。よく考えたらジャコなわけがない。それでも、よかった。
胸に安堵が押し寄せたが、自分自身がピンチを脱したわけではなかった。それでも、奴さえ無事なら……と思ってしまいそうになる。もう止まってしまいたい、と思う足をこらえて、オレは引き続き、取り囲まれながら歩いた。
しかし、長くは続かなかった。
「うわっ!?」
最初は小さな悲鳴だった。
「どうした」
「わかんね、うわ、なんだよ、離せ!!」
背中の重みがすっと消えた。
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