Ⅱ リッカ

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「あ、猫」  満杯になったはずの頭の隙間に、すれ違った誰かの声が入り込んだ。 「ほんとだ、かわいー」  声は一瞬で通り過ぎて行ったが、指差された先をオレは見た。  ……え、ジャコ? 「よそ見してんじゃねえぞ、つぶされてえのか」  慌てて顔を戻す。心臓が早鐘を打っていた。  今度は目だけを動かして同じ方向を見た。間違いない、あの毛並み、脚の引きずり方、あんな猫はジャコしかいない。  ――なんでこんな所にいるんだ。さっさと逃げろ。  自分の目の力を信じて語りかける。すると、ジャコらしい猫はオレの視界から消えた。  ――よかった。よく考えたらジャコなわけがない。それでも、よかった。  胸に安堵が押し寄せたが、自分自身がピンチを脱したわけではなかった。それでも、奴さえ無事なら……と思ってしまいそうになる。もう止まってしまいたい、と思う足をこらえて、オレは引き続き、取り囲まれながら歩いた。  しかし、長くは続かなかった。 「うわっ!?」  最初は小さな悲鳴だった。 「どうした」 「わかんね、うわ、なんだよ、離せ!!」  背中の重みがすっと消えた。
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