Ⅱ リッカ

35/70

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
 バンッ!! 「キャー!!!!」  誰かの悲鳴、と、目の前を超えて吹っ飛んでいった、一匹の猫。 「ジャコ!!!!」  オレの、絶叫。  人通りの多い交差点だった。怒号と悲鳴が飛び交い、あたりが騒然となる。飛ばされた小さな身体が見えなくなる。 「邪魔だ、どけ!」  自分の危機など忘れた。駆け寄った灰色のかたまりからは、信じられない量の血が溢れだす。 「ジャコ、ジャコ!!!!」  手のひらでは抑えきれない。胸にかき抱いて、身体全体で出血を止めようとした。  ぐっしょりと胸元が濡れるばかりでらちがあかない。生温かいまま、小刻みに震えるオレのジャコ。 「ジャコ、すぐだ! 病院までお願いだから我慢しろ!」  呼びかけながら、気づいていた。必死で走ったけれど、わかっていた。ジャコはもう助からない。こんなに流れてしまったら、身体の中には何も残らない。  尊い心臓と引き換えに、オレは絶体絶命の危機を乗り越えた。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加