Ⅱ リッカ

36/70

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
 オレの命は助かったが、タチアオイのほうはそうはいかなかった。  世話になっていたハコに出してもらえなくなった。企画に呼んでくれるバンドもいなくなった。そして、極めつけ。 「え、契約解除?」  トンが信じられないといった面持ちで尋ねる。マネージャーの三角は悲痛な顔で頷いた。 「俺も詳しいことは聞かされてないんだ。ただ、上が圧力をかけられたとしか……」 「メジャーデビューは」  もう日取りまで決まっていた。CDの発売に合わせたライブツアーの開催も。 「もちろん、白紙だ」 「は、全部順調だったじゃないですか。なんで、突然……」  ハチの顔も真っ青だ。何も言えないオレに、ずっと黙っていたシゲがおそるおそる切り出した。 「おい、リッカ」 「ん」  あの日、血まみれのまま家に帰ったオレは、説明も、打ち合わせをさぼった言い訳も何もせず、ただシゲに「ジャコが死んだ」とだけ伝えた。  亡骸はどうしたらよいのかわからず、運んだ病院で手続きができるというので、何も頭が働かないまま火葬をお願いした。仮にも一緒に住んでいたのだから、シゲにも相談すべきだったと後から思いはしたが、その時は、そんなことにも思い至らなかったのだ。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加