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オレの命は助かったが、タチアオイのほうはそうはいかなかった。
世話になっていたハコに出してもらえなくなった。企画に呼んでくれるバンドもいなくなった。そして、極めつけ。
「え、契約解除?」
トンが信じられないといった面持ちで尋ねる。マネージャーの三角は悲痛な顔で頷いた。
「俺も詳しいことは聞かされてないんだ。ただ、上が圧力をかけられたとしか……」
「メジャーデビューは」
もう日取りまで決まっていた。CDの発売に合わせたライブツアーの開催も。
「もちろん、白紙だ」
「は、全部順調だったじゃないですか。なんで、突然……」
ハチの顔も真っ青だ。何も言えないオレに、ずっと黙っていたシゲがおそるおそる切り出した。
「おい、リッカ」
「ん」
あの日、血まみれのまま家に帰ったオレは、説明も、打ち合わせをさぼった言い訳も何もせず、ただシゲに「ジャコが死んだ」とだけ伝えた。
亡骸はどうしたらよいのかわからず、運んだ病院で手続きができるというので、何も頭が働かないまま火葬をお願いした。仮にも一緒に住んでいたのだから、シゲにも相談すべきだったと後から思いはしたが、その時は、そんなことにも思い至らなかったのだ。
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