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シゲに「曲ができない」と伝えると「少し休もう」と返された。
「事務作業は俺がやるよ。リッカは少し、おとなしくしててくれ」
自分以外の三人がどのような話し合いを持ったのかは知らない。トンもハチも、オレと顔を合わせようとしなかった。オレが腑抜けていなかったとしても、これじゃあどうしようもなかっただろう。三角の言ったことを忘れてはいなかったが、夢物語とすら思えなかった。
気づいたときには、タチアオイは「活動休止」の看板を掲げることとなっており、そのニュースは芸能面の片隅を少しだけ賑わせた。
「リッカ、俺、この家を出ようと思うんだ」
シゲに切り出されたのはそれから少ししてのことだった。
「福岡で音楽やってる友達がいて、バンド組んでるんだけどドラムが見つからないって相談されててさ」
オレは冷蔵庫をあける手を止め、シゲを見た。
「まあ、正規のメンバー見つかるまでのつなぎだとは思うんだけど、しばらく手伝ってこようかなって」
「いーんじゃねえの」
答えると、シゲはほっとしたように息を吐いた。
引き留める理由はない。役立たずのオレに代わって忙しなく働いてくれたのはシゲだった。契約解除の手続き、ファンへの告知、マスコミ対応。全部やらせておいて、文句をいえる筋合いもなかった。
「リッカはどうする? この部屋広すぎるだろうし、お前も出てくか?」
「わかんねえな。ま、気にするなよ」
帰る場所などない。かといって行く先も見当たらない。オレは、どうすればいいかわからなかった。
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