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声をかけたというより「声を出した」に近かった。自分の中で自問自答を繰り返しすぎて、うっかり開いた穴から落としてしまったようだった。
別に必要なものでもないから、拾わずそのまま立ち去るつもりだった。なのに、そのかたまりはゆっくり動き、頭をもたげたのだ。それは人間の、そして少年だった。
「おい」
今度は近づいた。というより、引き寄せられた。
「お前……死ぬぞ。家に帰れ」
色白の肌。元から色素が薄そうなびしょ濡れの髪。現実味がないくらいきれいな顔立ちをしていて、男に使うのは不適当かもしれないが「美人」だと思った。
「家」
冷たさで白くなった唇が開かれる。そして予想もつかないことを言う。
「家、わかんない」
「なんだそりゃ、警察呼ぶか?」
泥酔かクスリの類だろうか。それにしては若すぎるし、酔っている風でもなかったが。少年は露骨に眉をしかめた。
「ケーサツは嫌だ」
「そうか。じゃあ、名前は?」
少年は困惑したように沈黙する。いらいらするが、最初にかまったのは自分だと思い直し、顔にかかるうっとうしい雨を振り払った。
「年は?」
「わからない」
しかたがないので、オレは少年をじろじろと見やった。
あどけなさと大人っぽさが奇妙に入り混じる顔だった。声もおそろしいくらい落ち着いており、少年には見えるのだが、不思議と年がつかめない。
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