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家についてみると、玄関の引き戸が、飛び出したときに勢い余って跳ね返ったのか、数センチ開いたままになっていた。不用心きわまりないが、最寄駅から徒歩二十分以上、築五十年を迎えようというオンボロ荘の扱いは普段からこんなものだ。
シゲがいない今、小言をいう人間すらいなかった。がらっと開けて中に入ると、土間に水滴がぼたぼた落ちる。
「待ってろ」
そいつに声をかけ、タオルを探した。見つけた二枚のうち、より最近洗ってありそうなほうを玄関に放り投げる。
「これ使え。しっかり拭けよ」
自分もわさわさと髪の水分をぬぐい、水浸しのシャツとズボンを脱いで下着姿になった。物音がしないな、と思って振り返ると、そいつはオレが投げたタオルをつかんだまま突っ立っている。
「どうした?」
「どうしたらいい?」
ああ、もう、そんなことまでわからないっていうのか?
色々全てが面倒くさくなったオレは、タオルをそいつから奪い取り、頭をわしゃわしゃと拭いてやった。
透き通るような手触りの毛に驚いて、心臓が少しだけ揺れる。と、そいつも棒立ちになりながら、なぜか顔を赤くしている。
「なに照れてんだよ」
自分の恥ずかしさをごまかすように口に出すと、いきなり鼻先を、胸のあたりにすりつけられた。
「え」
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