Ⅱ リッカ

48/70
前へ
/145ページ
次へ
「なつかしい……においだ」  素肌をこすられる感触。意外すぎる展開に動揺しかけたが、子供あいてに恥ずかしがってどうする、とそっと身を引く。嫌悪感はまったくなかったが、こいつ何なんだ、という思いは強くなった。 「拭くだけじゃしょうがないな……風邪ひくからシャワーも使え。着替えは適当に出すから」 「シャワーは嫌いだ」  シャワーって何? という返答を予測していたオレは、死角から飛んできたショットに思わず間抜けな声を出した。 「は?」 「嫌だ、シャワーは」  倒置法使ってんじゃねえよ。――とんでもなく面倒くさいものをオレは拾ってしまったのかもしれない。  もう知るか、と逃げようとする身体を無理やり抱きかかえた。身長が低めであることを差し引いても、驚くほどしなやかで軽い身体だった。 「おい、靴はぬげよ。……って、くつ、靴は? うそ、履いてなかったのか?」  かすり傷のついた足先が目に留まり、ぎょっとした。 「そーだよ」 「大丈夫か、気づかないで悪いことした……」 「いや、慣れてるから、へいき」  どういうことだよ、と思いながらも、まずは風呂だ、と思い出し、性能の悪い給湯器がようやくお湯を吐き出し始めたのを確認してから、風呂場に押しこんだ。 「とにかく頭から浴びろ。二十秒はかかれよ、絶対な」  雨で冷えたとはいっても、季節は夏前だから、その程度でなんとかなるだろう。  言われたとおりのタイムで出てきたそいつの頭をまた乱雑に拭いてやり「身体も拭いてから着ろよ」と自分の服を手渡した。買ったまま開けていない下着が見つかったのは幸いだった。ちらりと見た身体は、首から下の肌も磁器のように白く滑らかで、しっとりとしていた。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加