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「服きたら、あっちの部屋使えな。空いてるから」
元シゲの部屋、を指差し、自分も風呂に飛び込む。
あんなに何もかもがどうでもよかったはずなのに、風邪をひいたり、ましてや喉にきたら最悪だ、と久しぶりに現実的な判断が下りてきたのだ。
ゆっくりと身体を温め、置き忘れたタオルを取ろうと折り畳み戸を開くと、足元にうずくまるかたまりがすぐ出たところにあった。
「うお、なんだよ。びっくりするだろ」
「あ」
顔を上げたそいつは、オレの股間を見て目を丸くした。
「あ、ってなんだ。あ、て。そこのタオル取ってくれ」
言われたとおりにタオルを取り手渡してくれるそいつを見ていると、連想されるものがあった。アヒルの行列だ。
飛べない鳥は、産まれて最初に目に入った動くものを親だと認識してついていく習性があるという。もしかして、うまれて初めて出会ったのがさっきのオレ――って、んな馬鹿な。
「ありがとな。あのな、いいか。聞けよ」
「なに?」
「お前はちょっと、いやかなり、常識が欠けているようだから言っておく。いいか、風呂と便所はプライベートだ。お前だってションベンしてる最中、隣に引っ付かれたら落ち着かないだろう、ついてくるな。風呂と便所はやめろ。あと、仕事な。それ以外なら、別についてこようがどこに居ようが、かまわないから」
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