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「わかった」
そいつは殊勝な返事をした。
「でも、『仕事』ってなに?」
聞かれて、少し考えた。
「仕事っていうのは……それをやって生きていく、ってことだ。大事なことだよ」
わかったようなわからないような顔でそいつは頷いた。
「わかったならどけ。服着るのに邪魔だ」
水滴を飛ばしながら足の甲で追いやると、顔を赤くしながら部屋へ向かっていった。トランクスとTシャツだけ身につけて自分も向かうと、畳の中央でまた膝を抱えている。
「お前の部屋はあっちだろ」
「風呂とトイレと仕事以外ならどこにいてもいいって」
「それもそうだな――って違うだろ。家主の言うことはちゃんと聞けよ、追い出されたくなかったら」
かつての自分は棚に上げた。頭を両手で拘束し、顔に顔を近づける。出しうる限りの低音ですごんでみせたが、効果はまったくなかった。
透き通るような目がオレの目を見つめる。ふわふわした頭の毛が、顔にぶつかってくすぐったい。
「おまえ、目が」
「うん」
「灰色なんだよな……めずらしい」
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