Ⅱ リッカ

50/70
前へ
/145ページ
次へ
「わかった」  そいつは殊勝な返事をした。 「でも、『仕事』ってなに?」  聞かれて、少し考えた。 「仕事っていうのは……それをやって生きていく、ってことだ。大事なことだよ」  わかったようなわからないような顔でそいつは頷いた。 「わかったならどけ。服着るのに邪魔だ」  水滴を飛ばしながら足の甲で追いやると、顔を赤くしながら部屋へ向かっていった。トランクスとTシャツだけ身につけて自分も向かうと、畳の中央でまた膝を抱えている。 「お前の部屋はあっちだろ」 「風呂とトイレと仕事以外ならどこにいてもいいって」 「それもそうだな――って違うだろ。家主の言うことはちゃんと聞けよ、追い出されたくなかったら」  かつての自分は棚に上げた。頭を両手で拘束し、顔に顔を近づける。出しうる限りの低音ですごんでみせたが、効果はまったくなかった。  透き通るような目がオレの目を見つめる。ふわふわした頭の毛が、顔にぶつかってくすぐったい。 「おまえ、目が」 「うん」 「灰色なんだよな……めずらしい」
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加