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スーパーでは、米と味噌と、豆腐とねぎをカゴに入れた。
「お前、肉と魚とどっちが好きなんだ」
「どっちも」
「即答かよ」
知らない、わからない以外の答えが珍しくて、つい吹き出す。
「じゃあ、安いから肉な」
塩を振って焼けばなんとかなるだろう、と薄切り肉とコショウも買った。
結果を言うと、おぼろげな記憶を頼りに作った味噌汁は味に深みがなく、そのくせ少し塩辛かった。豚の塩コショウ焼きのほうはそれなりだった。
「おいおい、飲み干すなよ。高血圧になんぞ」
折り畳み式のローテーブルの向かい側に座ったジャコに注意する。
「コーケツアツ?」
「大人の病気だよ。ん、病気とは違うのか? よくわかんねえな」
ま、お前には縁がなさそうだけど、と付け加える。
「にしてもこの味噌汁、味濃いくせになんか足らねえんだよなあ」
何だろうな、と液体を舌の上で転がしていると、ジャコが唐突に言った。
「だし」
「おお、出汁か! なるほど。……って、なんでお前がそんなのわかるんだよ」
「『出汁をきちんと取らないと美味しくならないのよ』」
「は?」
誰かの真似のような口ぶりだった。聞き返してみたが、本人もそれ以上は思い出せないようで、首をかしげただけだった。
「……出汁ってどうやんのかな」
オレは部屋の隅に転がっていたノートパソコンを引き寄せた。作曲に使っていたものだが、表面にうっすらと埃の層を感じる。
「煮干し……昆布……めんどくせえなあ。あ、なんだ、素みたいなのあんじゃん。これ買ってきて入れればいいんだな」
行儀悪く寝ころんだ横で、ジャコも横すわりをして画面をのぞきこんでいる。
「ジャコ、お前やるか?」
「なにを?」
「料理。いつもオレにくっついてんのも暇だろ」
なんなら本とか買ってやるからさ、と言ったところであることが気になった。
「そういえばお前って字は読めるのか?」
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