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「字?」
この国にいるなら義務教育くらい受けているはずだが、あれだけ身元がおぼつかないようだとそれすら怪しい。本来なら今も、どこかの教室で授業を受けている真っ最中なのではないか、と考えたところで、昼間に考えなしに外に連れ出したのはうかつだった、と気づいた。
平日の日中に出歩く少年。不登校だとか親の方針とか、理由はいくらでもつけられるだろうが、連れが自分みたいな人間だったら、職務質問はまぬがれ得ない。
パソコンのカレンダーで確認すると、幸い今日は日曜日だった。今後はよく気を付けて外出しよう、と決める。見ようによっては大学生くらいに見えなくもないジャコだが、大事をとるに越したことはないだろう。
「まあいいや。たとえば、これ読めるか?」
オレは、インターネットの検索結果を開いた画面をジャコに見せた。
「えっと。……まず最初がわかんない。これ、何?」
ジャコは『出汁』と書かれた箇所を指す。
「おう。それが『だし』だよ」
「ふーん。『だしは、こんぶや、にぼしなどを』」
わからなくなるとオレを見る。
「煮る……『にて』だよ」
「『にぼしなどをにて、だしたしる、のこと』。合ってる?」
「あってるあってる。なんだ、いけんじゃん」
得意げな顔を見ると、こちらまで嬉しくなる。
「でも次またわかんない。何?」
「ああ……『てま』だな」
「『てまのかからない、なんとかだし、がべんりです』」
「顆粒出汁ね。たしかにむずいな。難しい漢字とかって、オレはゲームでほとんど覚えたんだよなあ」
「ゲーム?」
知らない言葉をオレが使うと、こいつは聞き返すだけでなく、いちいち首をかしげる。その仕草が、どうにもかわいく見えてしかたがない。
「テレビにつないで遊ぶ機械だよ。そういえば、実家から持ってきたはずなのにここに来てからやったことなかったな……」
「やりたい」
「お、いいぞ」
遊びと聞いて興味を持ったようだ。二人して押入れをひっかきまわすと、記憶通り年代物のプレイヤーが出てきた。しかしソフトが見つからない。
「よし、今から買いに行こう」
「行く」
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