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ドロドロの状態で家に帰りつく。どこかの家からカレーのいい香りが漂ってくるものだから、自分の生き様との違いに、余計にみじめさが増した。
「ただいま」
ところが、がらがらと引き戸を開けると、その刺激的なにおいは濃くなった。米の炊ける甘くて香ばしい気配も感じられる。
「ジャコ?」
「あ、リッカ、おかえり」
ビーサンを脱ぎ台所を覗きこんで驚いた。鍋の中で琥珀色の液体が、ことことと煮込まれているのだ。
「お前、カレーなんて作れたのか?」
「うん、カレーなら初めてでも失敗しない、って書いてあったから」
昼飯を買う余裕すらなくぼろ雑巾のように使い果たされた身体が、たちまち生気を取り戻す。シャワーで頭から足の先まで綺麗さっぱり洗い流して、オレは食卓についた。
「いただきます」
「いただきます」
「ん?」
「あれ?」
しかし、一口食べたオレとジャコは、同じタイミングで顔を見合わせた。
「……ちょっと、苦いか?」
「それにザバザバする……水っぽい。カレーってこういう食べ物?」
「いや、普通はもうちょいこっくりしてて……」
ジャコの目が曇る。オレは慌ててフォローした。
「でも悪くないよ。だいたい、初めてだろ。初めてでこんだけ正解近く作れたなら十分だ。苦いのはもしかして、焦がしたりしたか?」
「そう。水量るやつがないかなと思ってさがしてたら、野菜がこげちゃってた。量るやつもなかったから、水の量もわかんないし」
「あーたしかにそんな調理器具がうちにあるわけねえわ。なるほど、それで水も多すぎたんだな。よし」
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