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「……大丈夫? 生きてんの? ってリッカ、拾ってどうするつもりだよ、子猫ならまだしも」
「重っ!」
そうだ、おれは子猫なんかじゃない。むしろ、こんな羽目に陥らなくても、曲がり角は曲がって死ぬほうが若干近いくらいの年齢なのだ。おまけに体はズタボロだ。
なのに、リッカと呼ばれたその男は、ためらいもせずにそのままおれを腕の中に抱いた。……手のひらとは違って、いやに温かい胸だった。
「こいつ、やばい怪我してる。早く病院連れてかないと」
「はあ? 病院なんて連れてってどうすんだよ。まさか、飼うとか言い出す気じゃねえ……って、おい、リッカ!」
「うるせーよ、シゲ。おい、お前、すぐだからな。ちょっと我慢しろよ」
そう言うと男は、雨の中を駆け出した。ふんふん鼻歌をうたいながら。
その旋律は子守唄というにはあまりにエッジのきいた尖った響きで、しかし疲れきったおれは聴きながらすぐさま眠りに落ちていった。
相変わらずミシミシと頭も身体も痛んだが……死の影は、もう遠かった。
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