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「今はな。じゃ、行ってくる」
ようやく見つかったそれをひっつかんで家を出た。秋も暮れはじめた早朝は冷えこみがきつく、薄着の身体にだいぶ堪えた。
ジャコにも暖かい上着を買ってやらねば、と思った。新品は到底無理だが、古着屋にいけばなんとかなるかもしれない。
事務所につき、指示を受ける。午前中の仕事は一人暮らしの女性が同じ市内の実家に帰るためのものだった。
「梱包は終わってます。どんどん運んでください」
「わかりました」
スムーズに作業は進み、そのうえ実家の両親が温かい飲み物を一人ずつに差し入れてくれたので、だいぶ幸先がよかった。
「午後便も気合い入れてけよ。さっさと終わらせるぞ」
「気合いで済むなら苦労しないっての……菅原、昼飯それで足りんの?」
コンビニの駐車場にトラックを止めての昼休憩だった。逃げ場がないので、リラックスはほとんどできない。
リーダーの喝入れに、聞こえないようぼやいたベテランの鈴木が、おにぎり一つのオレの買い物袋をのぞきこんで心配そうに言った。
「金欠なんで」
「給料日前はつらいよな」
これも食っとけ、と寄こされたホットスナックを素直に受け取る。中身は唐揚げで、一瞬で食べ終わるほど美味かったが、自分で買った昼飯より価格が高いことと、たかだか二百円をありがたく感じる自分の心に、感謝の一方で惨めな気持ちにもさせられた。
午後の現場は簡易なつくりのアパートだった。
「部屋は二〇一号室、エレベーターはなし。菅原がまず室内の養生、鈴木はハンガーラック運べ」
「ハイ」
リーダーの山城の指示で、緩衝材と養生テープを持って走った。二階程度なら駆けて往復しても息は切れなくなってきた。
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