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和室が二室の2Kの間取りで、オレの部屋と雰囲気がどことなく似ている。大物家電のある場所から玄関まで、壁や床に傷がつかないよう養生をほどこすあいだに、残りの二人は荷物の搬出を始めていた。
「なんだこの箱、クソ重えな」
山城が抱える黒い直方体を横目で見やる。すぐに正体はわかった。
「アンプっすね」
「アンプ?」
「ギターとかの音変えたりでかくしたりするやつです」
「ふーん」
スタジオ練習用くらいのサイズだったから、おそらく二十キロはあるだろう。造作もなく運び出されていったが、相当重いものだ。
ということは、部屋の主はバンドマンか。自分の商売道具くらい自分でもってけよ、と内心思った。
搬出が終わると車に乗り込み、引っ越し先へ向かう。
「菅原もバンドかなんかやってるわけ?」
今日のトラックは助手席が二人掛けで、三人が横一列に並ぶ仕様だ。
「『も』ってなんすか」
オレは真ん中に座っていたが、リーダーの山城に質問されたので運転席のほうを向いた。と、タバコの煙が漂ってきたので慌てて顔をそむける。
「さっき黒い箱のこと即答してただろうが」
この短時間で、もう名称を忘れたのか。
「ああ……たまたまですよ」
本当のことを言うつもりはさらさらなかった。すると山城はぺらぺら喋り出す。
「そーなの? この仕事けっこう多いんだよなあ、バンドやってますうーとか芸人目指してますうーとか。別にやるのは勝手にどうぞだけど、すぐバックれるやつがすげえ多くてマジ迷惑してんだよ。いまどき『夢追っかけてます』なんてバカかっつーの」
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