Ⅱ リッカ

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「段ボール、いったん全部奥の部屋でいいですかねー?」 「あー、それで」 「わかりましたァ」  オレたちへとは百八十度違う慇懃な態度に内心で唾を吐く。帽子を目深にかぶり直して下まで駆け降りると、最初の大物である冷蔵庫を鈴木と一緒に運ぶことになった。 「菅原、天井大丈夫か」  腰を落とした鈴木が声を張る。 「オーケーっす」 「じゃ行くぞ。せーのっ」  部屋に運び入れてしまえば、布を敷いた床の上を滑らすことができるとはいえ、壁の全てに気を配りながら重量数十キロを運ぶのはとても難しい。ベテランのサポートで指定場所に設置し終えたときには、もう全身が疲れていた。  だが、運ぶものはまだ山積みだ。鈴木の後について足早に部屋を出ようとすると、玄関に家主が立っているのが見えた。 「失礼します」  頭を下げながら靴をつっかける。 「待てよ」  突然、帽子のつばを無遠慮に持ち上げられた。 「……は?」 「おいおい冗談だろ……まさかと思ったが、本当にリッカじゃねえか」
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