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傲慢な動作を思わずにらみつけようとした顔が固まる。恐れていた事態が起きてしまった。
「……厄島」
オレたちと同じ事務所だったバンドのギタリストだ。タチアオイの活動中は何かと一方的に敵視されていたが、こんな住居に引っ越すまでになっていたとは。ねめつけるような視線に、不快感をもよおす。
「事務所にもメンバーにも捨てられて、いいザマだな」
不躾な右手から逃れようとするが、制帽からいっこうに手を放してくれない。
「多賀なんか福岡でずいぶん売れてるみたいじゃねえか。野田も手堅く仕事してるし、えらそうな顔して、やっぱりお前が一番の足手まといだったんだな」
「ふざけた口きいてんじゃねえぞ」
耐え切れなくなって口に出す。
「おいおい、底辺アルバイトの身分で、客にそんな態度取れると思ってんの? よっぽど金に困ってるんだろ。上司に何チクってやってもいいんだぜ?」
思わず唇をかんだ。一人だったら厄島ごとき後先考えずにボコボコにしてやるが、今のオレにはジャコがいる。面倒を起こすわけにはいかなかった。
「……仕事中なんで。失礼します」
いずれにせよすぐ戻らなければ、今度は山城にどやされる。きびすを返そうとしたが、すかさず腕をつかまれた。
「逃げてんじゃねえよ。誰に言ってやろうか、あのリッカがここまで落ちぶれてるってよ」
生気のない目と、歪んだ口元のギャップが気味悪かった。
「そもそも実力もないくせに落ちるのは当たり前だよな。歌も曲もどこかの誰かの焼き直し。パフォーマンスと顔だけで築いた虚構の人気だったんだから。俺なら死んだ方が百倍はマシだ」
「てめえ」
許しがたさが全身を支配する。オレへのあざけりなら好きにしろ。
しかし今のは、メンバーへの、ファンへの、そしてタチアオイの可能性を信じてくれた関係者全てへの侮辱だ。
オレは厄島の手を振り払い、そのまま掴みかかろうとした。
「スガハラぁ!」
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