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山城の怒号が飛んできた。高級マンションにあまりにも似つかわしくない響きに、ぎりぎりの所でオレは止まった。
「サボってんじゃねえ! さっさと次運べ!」
「すいません!」
こいつを殴るのはいつでもできる、と高ぶる気持ちを切り替える。
「おい、待て」
今度こそ無視だ。厄島に背を向け、オレは部屋を飛び出した。
「って、じゃなくて」
「危ない!」
鈴木の声が聞こえた瞬間、目の前に真っ白な壁が立ちはだかった。とっさに身を守ろうと右手が出る。その指先が、壁にしこたま激突した。
「うっ」
あまりの痛みにへたりこむ。バランスを崩しそうになった鈴木が、それでも洗濯機を抱えながら踏ん張っているのが見えて、しゃがんだまま道を開けた。
控えめに言っても、最悪だった。
「菅原、大丈夫か、声かけなくてすまなかった」
横を通り過ぎながら、心配そうに声をかけてくれる。
「いや、オレが悪いっす。すみません」
殊勝なセリフは言えたが、指の痛みはがんがんと頭にまで響く。身体の中で反響しているから、正確にどの指なのかもわからない。もう終わりだ。
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