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「バカヤロウ! 何してやがる!」
山城は近所迷惑も気にせずにオレをどやしつけた。
「突き指だ? 甘えんな! まだ山ほど残ってんだぞ」
「山城さん、これ折れてますよ。さすがに無理です」
赤く腫れあがったオレの指を見て、鈴木がとりなしてくれる。折れているかはともかくとしても、痛みのせいで物に触ることもできない状態では、これ以上働けないのは明白だった。
「じゃあいいよ。邪魔だから帰れ。クビだよクビ、こんなに使えねえ奴とは思わなかった。会社に報告しといてやるよ」
大げさなほどのため息で畳み掛けられた。
「それは、あんまりじゃ」
「お前もクビにされたいのか? とっとと残ってるもん運べ。とっくに時間は過ぎてんだよ」
「でも」
「いいっす、鈴木さん。すんませんでした」
悪いのは圧倒的にオレなのに、鈴木の申し訳なさそうな顔がひりひりと脳裏に焼き付いた。払いのけるような手振りで追い出され、日のとっぷり暮れた寒空に転がり出た。
ろくに知らない街で、なんとか診療時間ぎりぎりの整形外科に滑り込めた。
レントゲンを撮られると、やはり右手の中指が骨折していた。ギプスでぐるぐる巻きに固定され、会計は手持ちで足りるわけもなく「すぐ戻ります」と寒空の下にUターンする。
目についた消費者金融の自動契約機に直行した。入るところを誰かに見られたら、と思いはしたが、今さら失うものは何もないように思えたし、他に選択肢もなかった。
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