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――事務所にもメンバーにも捨てられて、いいザマだな。
おそらく仕事終わりであろう人々が荒れた海のように行きかう改札前で、オレは自分の右手を見つめ、立ち尽くしていた。
混雑に慣れた彼らは、障害物のオレを器用に避けながら改札を行き来していたけれど、ときたま流れに乗れなかった小石のようにぶつかっては舌打ちをし、そして去って行った。誰もオレに関心を示さなかった。
――誰に言ってやろうか、あのリッカがここまで落ちぶれてるってよ。
財布にはかろうじて、家までの電車代しか入っていなかった。銀行口座にもATMで引き出せないほどの端金しか残っていない。カードローンで借りたのは一万円に満たなかったが、返すことができなければ暴利で膨らむばかりだ。しばらく働けないケガなのに、今日の顛末で給料が入る見込みもなくなった。
詰んだ、とはこういう状況を言うんだろう、と思った。そして、今自分にとれる行動は一つしか思いつかなかった。
――俺なら死んだ方がマシだ。
思わず笑みがこぼれる。自分の結論があの憎たらしい小者によって導き出されたかと思うと癪だが、もうこれしかなかった。
『リッカはおれに「仕事はそれをして生きてくこと」だって言っただろ。リッカは、バイトして生きてくのか?』
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