第7章

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 初めて間近で目にした傷痕は、想像していたよりも惨たらしい物だった。避けていた現実は鋭く重く突き刺さり、高揚感に浮かされていた気持ちは一気に沈められてしまった。 「この傷の事は気にする必要はない。これは私の油断が招いた物なのだから」 「……で、でもっ」 「それに、傷ならラズの身体にもあるではないか。……私を救ってくれた勇気ある証が」  そう言うと、アウジードはラズの首筋に唇を寄せた。そこには、儀式の日にルドと戦い負った傷の名残がうっすらと残っていた。 「此処だけではない。……此処も、……此処にも……」  首筋から肩に、肩から腕に、そして胸へと移動していく唇。そこには首筋と同じように戦いの証が残り、アウジードはそのひとつひとつに唇を落としていった。 「……アウジード」  唇が触れるたび、彼が内に秘めている想いが伝わってくるようだった。伝わる想いは仄かな熱となり、もう癒えたはずの傷を疼かせ、消えかけていた高揚感をラズの中に甦らせていく。 「……俺も。俺もアウジードに救われた。アウジードが居てくれたから、今の俺があるんだ」  ラズは身体を屈ませ、アウジードの太股に残る傷痕にそっと唇を落とした。初めて触れたその場所は、まだ赤みが残った皮膚が歪に盛り上がり、僅かな熱を持っていた。アウジードは表情に見せないが、おそらく眼帯の下にある深い空洞の奥も、ここと同じように痛みと傷痕を残しているだろう。  自分を“砂狼”という縛りから解き放ってくれた多くの傷痕。そこからは横暴なだけではない彼の不器用な優しさが感じられ、胸には感謝と愛おしさが溢れてくる。 「……ラズ?」  アウジードの手が伏せたまま顔に添えられる。その手に促されるままに顔を上げたラズは、両目から大粒の涙を流していた。
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