第7章

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 流れてくる夜風に金色の髪を揺らし、自分では感じる事のできない魔力の匂いに触れる。二人は言葉を交わす事なく風を感じていた。  しばらくの後、アウジードは寝台の傍らに杖を立て掛け、ゆっくりとラズの隣に腰を下ろした。 「……まだ、痛むのか?」 「多少はな」  座る際、アウジードの動きは非常にぎこちなく、座った後も表情には出さないが辛そうに左足を擦っていた。ラズはその様子を心配し、彼が擦る場所に手を伸ばそうとする。だが、その手は寸前の所で止まり、迷うようにしばらく宙に留まった後、アウジードに触れる事なく引っ込んでしまった。  砂狼に襲われ深い傷を負ったアウジードは、城に帰還後もしばらく昏睡状態が続いていた。王であるカーレントの命を受けた王直属の医術者が治療を引き継いだ事で、外傷の大半は数日も経たないうちに癒え、脈や呼吸も安定していった。表面上は順調に回復しているように思えたが、何故か意識だけは一向に戻る気配がなく、周囲には絶望視する雰囲気も現れ始めていた。  しかし、全く希望がないという訳ではなかった。  この世界には様々な魔力を蓄えた鉱石が存在し、日常生活に広く利用されている。それらは《火》や《水》といった自然の魔力属性に準ずる物だが、中には体力や魔力を回復させるという自然属性には属さない魔力を持つ鉱石も存在する。ただ、そな鉱石は非常に希少な物で、『幻の鉱石』と呼ばれている。土地の属性に関わらず、魔力の高い地にあると言われるが、魔力を感知する能力に乏しい人間が探し出すのは困難であった。そこで白羽の矢が立ったのが、魔獣であり魔力に鼻が利くラズだった。
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