第7章

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 ラズはその提案をすぐにでも受けたい気持ちはあったが、即座に返事ができないでいた。いくら魔力に鼻が利くとはいえ、この大陸は砂狼が数年おきに儀式を行い、土地の魔力を刺激し補充しなければ枯れてしまうような土地。他の大陸と比べ、鉱石を見つけられる確率は低く、確実に探索が長期になってしまうだろう。ラズが返事に二の足を踏んだのは、そこにあった。  もし、見つける事が出来なかったら……。  自分が城を離れている時に、アウジードにもしもの事があったら……。  自分はもう二度とアウジードの声を聞く事も、彼の手で触れてもらう事もできなくなってしまうかもしれない。そんな直面したくない恐怖に思考が鈍り、返事を躊躇わせてしまっていた。  しかし、アウジードがこうなってしまった元々の責任は自分にある。アウジードによって助けられた命、今度は自分がアウジードを助けなければ、と迷いを振り切り決意した。  出発の朝、ラズは未だ目を覚まさないアウジードに寄り添い、手を握り締めた。この温かな手が再び自分に触れてくれる事を思い描きながら、しばしの別れを告げると、名残を絶ち切るように勢いよく立ち上がった。――その時だ。まるで離れていく気配に動かされたかのように、ラズの腕が強く掴まれた。  突然の衝撃と伝わる感触に驚き声も出せないラズが振り返ると、その先には自分の姿を捉える青い瞳が輝いていた。眼光は弱いが、何かを訴えるようにラズだけを見つめ、その意思が弱々しく開かれていく口から発せられた。 「……何処に……行くつもりだ」  それは、あの儀式の夜同様に、ラズの行動を咎める言葉だった。  ラズは声を上げ泣いた。子供のように、アウジードに縋りつき、泣きじゃくった。力のない手で頭を撫でられる喜びを実感しながら。
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