第7章

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 この出来事を、皆は奇跡だと歓喜した。しかし、実際は手放しで全てを喜べる状態ではなかった。  竜の魔力を受け継ぐ金色の瞳を失ったアウジードの保有魔力は、依然減少した状態のままなのだ。意識を取り戻した事で多少は回復魔法の効果が向上したが、それは本当に微々たるもの。特に深く抉られていた左足の太股と、右肩から背中にかけての傷はなかなか癒えず、儀式の日から一ヶ月経った今でも深い傷跡と痛みを残していた。  魔力が完全な状態ならば、深手といえども一ヶ月も痛みを引きずる事はなかっただろう。だが、アウジードの魔力は、もう二度と以前のような状態に戻る事はない。この傷も、下手をすれば一生アウジードに痛みを残す事になるかもしれない。それを考えると、ラズは自分の招いた事の罪深さに苦しくなるのだった。 「……なあ、辛いんだったら、もう少し仕事を休んでも良いんじゃないか?」  体調を案じ声を掛けるが、それに対しアウジードは不敵に口角を上げる。 「私がゆっくり休んでいられる性分だと思うか?」 「……そうだけどさぁ」  あまりにばっさりと言い返されてしまい、ラズは言葉尻を小さくしてしまう。  意識を取り戻した後も治療は続けられていたが、アウジードは身体がある程度動くようになると、すぐに普段通りの忙しない日常へと戻ってしまった。彼の職務は魔獣研究だけではなく、政務にも深く関わっている。ゆえに多くの人々に頼られる存在であり、仕事は山のようにある。普通の人間ならば、まずは自分の身体を大事にし休養を選択するだろう。だが、アウジードは己の職務を愛し、魔獣研究を生き甲斐としている。そんな事もあり、彼は周囲の制止など聞く耳も持たず、職務に復帰した。  アウジードの性格を把握し、皆が諦めるなか、ラズだけは再三にわたって「休め」と、訴えていた。だが、そのラズも仕事中の生き生きとしたアウジードの姿を好きになっていた事と、彼の思いを尊重したい気持ちと重なり、あまり強くは言えないでいた。とは言え、辛そうにしている姿を目にしてしまうと、やはりしっかり休んでほしい気持ちも出てくる。
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