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「そう心配するな。私の仕事は身体を使うものではないから、そう負担は掛からない。それに治療も毎日受けている。じきに杖も不要になる」
そんな風に、逆に言い宥めらるてしまうと、自分の責任をいっそう強く感じてしまう。ラズの感情はそのまま表に出てしまい、つい伏し目がちになってしまう。
「……ラズ」
心なしか沈んだ声と共に、アウジードの手がラズの頬に触れる。優しく宥めるように触れてくる手に、ラズの胸は幸福と後悔がひしめき合う。しかし、しだいにこの温もりが戻ってきた喜びの方が強まり、胸を覆っていた苦しみが引いて、頬が緩んできてしまう。
もう、この手が離れていく事はない。そんな温かな安心感に浸り始めたとき、その温もりは音もなく離れていってしまった。
そして、心寂しさを感じる間もなく、思いがけない言葉が降りかかってきた。
「……ラズ。お前はもう自由に生きて良い……」
「えっ!? 何だよ、……突然」
自分を突き放すような言葉に驚愕し顔を上げたラズは、目の前の男の姿にさらに驚かされてしまう。アウジードは、今まで見せた事のない弱さを滲ませた表情をしていたのだ。
「ラズ、お前は魔獣だ。魔獣は人間以上に魔力に依存する傾向がある。私の元に留まったのも、おそらく私の魔力に依存してのものだろう。もしかすると、お前の私に対する感情も、魔力が生み出したものかもしれん。……そうなると、魔力の大半を失った今の私では、ラズの心と身体を満たしてやる事はできないだろう」
「……な、なに言ってるんだ?」
豪胆で自信に満ちた普段の姿を霞ませた様子に、ラズは酷く動揺してしまう。
「……だから、お前は自由になれ。此処を去り、自分の求める地を探しても良い。魔獣とは本来、誰にも縛られる事のない自由な存在なのだから」
「――っ!! だから、なに言ってんだよっ! 俺は……」
喰いつかんばかりの勢いで言葉をぶつけそうになる。だがふいに、数日前に聞かされ話を思い出し、ラズは静かに勢いを消していった。
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